初めて超音波厚さ計を使う方にも分かりやすいように、超音波の波形の見方を説明しています。ぜひご一読ください。
超音波厚さ計の探触子と呼んでいる超音波センサーには、超音波の受信部と送信部があります。
測定箇所に探触子を接触させると超音波が発信され、測定物の内部に伝わっていきます。内部に伝わった超音波は、裏側の境界面で反射し、探触子の受信部に戻ってきます。
超音波は材質の境界面で反射するという特性により、測定面の両側に探触子を当てる必要なく、片側からだけで測定することができるのです。
超音波厚さ計は、超音波の伝播時間(=じかん)に、各材質毎の音速(=はやさ)を掛けて、厚さ(=きょり)を表示します。
伝播時間(÷2) × 音速 = 厚さ
超音波の伝播時間とは、超音波を出してから境界面に反射して戻ってくるまでの時間です。
音速とは、超音波の伝わる速さです。材質により超音波の伝わる音速は決まっていて、鋼ならおおよそ5,900m/秒です。
下は、主な材質の音速です。金属でも材質により音速に違いがあることが分かります。
例えば、鉄を測定するのに銅の音速で測定してしまうと、2割ぐらい実際の厚さよりも薄く表示されてしまうことになります。
材質 | 音速(m/秒) |
---|---|
鋼 | 5,900 |
アルミニウム | 6,320 |
ステンレス | 5,800 |
銅 | 4,700 |
このように、超音波厚さ計は、伝播時間と材質の音速(超音波の伝わる速さ)を掛けることで、厚さを表示しています。
超音波厚さ計は、汎用超音波厚さ計と表示器付き超音波厚さ計の2種類に分ける事ができます。デジタル値のみが表示される厚さ計を汎用超音波厚さ計、デジタル値に加え、エコー(波形)が表示される厚さ計を表示器付き超音波厚さ計と呼んでいます。
NDTマートの厚さ計では、UM-4/UM-5/PM-5シリーズが表示器付き超音波厚さ計にあたり、エコー(波形)を確認しながら厚さを測定することができます。
表示器付き超音波厚さ計では、エコー(波形)を観察できるため、以下の利点があります。
汎用厚さ計は、デジタル値で厚さが表示されるだけのため、表示された厚さが予想と異なる際に、なぜそのような厚さが表示されるのか推測する事ができません。
一方で、エコー(波形)を確認できる表示器付き厚さ計では、波形の形状や高さ・位置を観察することで、腐食によるものなのかラミレーション等の内部欠陥によるものなのか等、推測することができます。
FRP(繊維強化プラスチック)の測定では、繊維からのノイズをゲート(閾値)を調整をすることで回避し、底面エコーを検出する事が出来ます。また、鋳物や裏面の腐食が極度に進んでいる材料の測定では、感度を上げて底面エコーを高くすることで、測定が可能になります。
基礎編
下の絵は、波形表示機能付きの超音波厚さ計に表示される波形(エコー)です。
超音波厚さ計の仕組みで説明したように、超音波厚さ計は、ゼロ点から底面エコーまでの距離(赤矢印)を厚さとして表示します。
横軸(X軸)は、伝播時間=厚さを表しています。厚物の測定では右側に底面エコーが現れ、薄物の測定では左側に底面エコーが表示されます。エコーの表示される場所からも、おおよその厚さが分かります。
縦軸(Y軸)は、エコーの高さ=超音波の戻ってくる強さを表しています。
平滑な材料の測定の場合は、超音波の減衰・損失が少ないため、超音波の戻ってくる強さが強い(=超音波の音圧が強い)まま探触子に受信されます。このため、画面に表示されるエコー高さが高くなります。
一方、底面に凹凸のあるような腐食した板の測定では、超音波が底面に反射する際に、色々な方向に跳ね返ってしまい、探触子に戻ってくる超音波が少なくなります。(これを"反射損失"と言います。)
超音波の戻ってくる強さが弱い(=超音波の音圧が弱い)ため、エコー高さが低くなります。
応用編
UM-5シリーズ向け
FRPのように繊維を含む材料を測定する場合、繊維に反射したノイズエコーを底面からの反射エコーと誤って検出してしまう場合があります。
そのような場合には、ゲート開始位置(エコーの検出を開始する位置)を右に移動する(ゲートの数字を大きくする)事で、ノイズを回避することができます。
UM-5、UM-4シリーズ向け
鋳物のように超音波の減衰が大きい材質を測定する場合、0.0mmと表示され、測定値が表示されないような場合があります。
その場合には、感度を上げることでエコーの高さを高くしたり、または、ゲート閾値(しきいち)の高さを下げる事で、小さい底面エコーでも検出できるようになります。
波形表示の見方で説明したように、波形表示機能搭載の厚さ計では、感度や、ゲートの開始位置・高さを調整することで、デジタル表示の厚さ計では難しい測定も行うことができます。
ここでは、デジタル表示と波形表示の測定結果がどのように違うのかを実例をご紹介します。
測定サンプル:FRP(強化繊維プラスチック) 厚さ6mm
デジタル表示の厚さ計の場合
FRPに含まれる繊維に反応してしまい、実際の6mmよりも薄い2.20mmという値が表示されてしまいます。
波形表示機能付き厚さ計の場合
(UM-4、UM-5シリーズ)
一番高い波である底面エコーを検出しているため、正しい厚さを表示していることが分かります。
波形表示機能付き厚さ計の液晶画面
底面エコーの手前に、小さな波(=ノイズ)がいくつかあるのが分かります。
このノイズが邪魔をして、デジタル表示の厚さ計では、正しい厚さを測定することができませんでした。
波形表示機能付き厚さ計では、ノイズの有無や底面エコーが戻ってきているかどうかを確認することができるので、デジタル表示のみの厚さ計では測定ができないものも測定することができます。
また、波形を見ることで、測定の確からしさの確認もすることができます。
超音波厚さ計の仕組みについては、
こちらでも分かりやすく説明してるよ。